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斉藤典彦「古今にあそぶ」 – 数寄和

斉藤典彦「古今にあそぶ」

数寄和

2008/6/21(土) – 7/5(土)

 

01
いにしへの奈良の都の八重桜 けふ九重ににほひぬるかな
「 花にほふ 」 51×169cm

 

 “見える”とは、どういうことなのでしょうか?
探し物が目の前に在り見えていても気付かない、という経験をされた人も多いことで しょう。同じように「絵」といえば目の前の見えるものを描くように思われがちです が、その時ですら記憶や他の感覚を総動員して対象を理解し見て描いているのです。 現代のヴァーチャルという視覚偏重の風潮のなかにあっては、つい目に見えるものだ けが全てであり真実であるように思ってしまいがちですが、見えているのに見えない 部分があることに気づくことが大事なのだと思います。
 これまでの作品では、わざと形や説明を曖昧にしてきました。それは、形より紙や 絵具の微妙な肌合いや変化で自分のイメージ・記憶を見る人に伝える試みでもあり、 視覚以外の他の感覚も使って絵を感じてもらいたいと考えたからです。何が描いてあ るかわかることが、その絵をわかることではないのです。
 例えば“はるの”という作品では、画面に芽吹く枝や草が描かれていますが、これ は単に目の前の春の野原を描いたのではなく、私の記憶のなかの東北や地元で見た春 の芽吹きの重なりを描いています。
これは、目の前に“見える”景色を詠むことよりも、「枕詞」や「本歌取り」という、 関連する歌のイメージに自己のイメージを重ね合わせて新たな詩世界を作り出す百 人一首の歌の詠まれ方や美意識の在り方と同じではないかと思っています。また、そ れが百人一首の世界を描いてみようと思ったきっかけでもあります。
 そして、この視覚のみに頼らないやり方こそが、現代の一瞬にして消費されてしま う「絵」を、豊かなイメージを伝える器として再生させる、もっとも真っ当な方法だ と信じています。
 今回、百人一首に詠まれている世界や美意識を描くために画面は、より繊細になっ ています。グローバルが当たり前の現代では、もう「わびさび」なんて関係ない、ま してや“みやび”なんて…という人が多いのかもしれません。しかし、“水面( すい めん)”と言ったときと“みなも”と言ったときではイメージされる世界はかなり異 なります。その微妙な違い、ずれにこだわることこそが大切だと思っています。“とろ” や“霜降り肉”の美味しさは、目に強く訴える映像のように誰にでもわかりやすいも のです。そろそろきちんと仕事をした“こはだ”や“干瓢巻”の美味しさについて語 ること、そしてそれが当たり前に美味しく思える舌にもどすことが大事なのではない のでしょうか。これは歳をとったからではなく、赤ん坊や子供の舌が一番敏感である と信じているからなのですが。
 さて、今日もまた、にじみや絵具の粒子があるべきところにおさまり、イメージと して立ちあがるまで、刷毛と筆で水と戯れるのでしょう。

斉藤 典彦

 

02

春すぎて夏来にけらし白妙の 衣ほすてふ天の香具山
「はるの」 34×24 cm

 

斉藤典彦 SAITO , Norihiko

1957 神奈川県生まれ
1980 東京芸術大学美術学部絵画科日本画専攻卒業
1982 東京芸術大学大学院美術研究科修了
1985 東京芸術大学大学院美術研究科後期博士課程日本画満期退学
1994 文化庁作品買い上げ
1995 文化庁派遣在外研修員(イギリス・ロンドン、’95~’96)
現在 東京芸術大学日本画研究室 教授

 

個展

1984 ’84レスポワール展/銀座スルガ台画廊(東京)
1985 「博士課程研究発表展」/東京芸術大学大学会館(東京)
ワコール銀座アートスペース(東京)
1987 銀座スルガ台画廊(東京)
1990 大手町画廊(東京、’91)
1993 「Water Land―水について―」/森田画廊(東京、’97、’99、’01、’03、’05、’07)
1995 玉屋画廊(東京)
1998 潺画廊(東京)
1999 「Luminous:内なる光」/日本橋(東京)・なんば(大阪)・横浜高島屋(神奈川)
2002 アートギャラリー閑々居(東京)
なか玄アート(東京、’04、’06)
ギャラリー尾形(福岡、’04、’06)
2003 高松天満屋(香川)
2005 広島市立大学芸術資料館(広島)
2006 「近江路」/数寄和大津(滋賀)
2007 アルスギャラリー(東京)
「きもちよくながれる」/平塚市美術館(神奈川)

 

グループ展・受賞

1979 春季創画展/日本橋高島屋(東京・他、~’05、’88、’89、’90、’91春季展賞)
創画展/東京都美術館(東京・他、~’05、’89、’92、’93、’97創画会賞)
1983 神奈川県美術展で特別奨励賞(’84美術奨学会賞)
1989 山種美術館賞展(優秀賞)
1992 NEW VOICES/ベミジ大学タリーギャラリー他(アメリカ)
1993 ART IN JAPANESQUE―現代の「日本画」と「日本画」的イメージ/O美術館(東京)
現代絵画の一断面―「日本画」を越えて―/東京都美術館(東京)
1994 文化庁買上優秀美術作品披露展/日本芸術院(東京)
1998 「日本画」:純粋と越境―90年代の視点から/練馬区美術館(東京)
2000 「日本画の100年展」/東京芸術大学大学美術館(東京)
「両洋の眼 現代の絵画展」/日本橋三越(東京・他、’01~’08、’05河北倫明賞)
2002 「日経日本画大賞展」/ニューオータニ美術館(東京、’04、’06、’08)
2003 「水を掬う、花を弄する。今日の作家展2003自然へのまなざし」/横浜市民ギャラリー(神奈川)他
「絵画の現在」新潟県立万代島美術館開館記念展/新潟県立万代島美術館(新潟)
「現代の日本画―その冒険者たち」/岡崎市美術博物館(愛知)
2004 「超日本画宣言 かつて、それは日本画と呼ばれていた展」/練馬区美術館(東京)
2006 現代「日本画」の展望―内と外のあいだで―/和歌山県立近代美術館(和歌山)
「新春を迎える掛軸展 和三様 第一部 日本画」/数寄和大津(滋賀)
2007 「日本画―和紙の魅力を探る」/徳島県立近代美術館(徳島)

 

作品収蔵

大原美術館、東京国立近代美術館、東京都現代美術館、新潟県立万代島美術館、練馬区立美術館
平塚市美術館、広島市立大学芸術資料館、山種美術館

 

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