数寄和 |
2009/4/29(水) – 5/6(水) |
2008年に数寄和にて行った個展「古今に遊ぶ」では、百人一首を題材とした作品を展示致しました。
作者は、本歌取り・枕詞などの作法による和歌の詠まれ方と、目の前の情景をそのまま描くのではなく、
経験した記憶の集積を重ねて作品化する制作の方法が非常に親しいものであり、
そして日本の絵が「絵画」として自律して作られるのではなく、
それらの詞との重層的な関係を保ちながら作られ続けてきた側面があると考えています。
今回は「旅人と 我名よばれん 初しぐれ」という芭蕉の句に触発され、制作した大作を展示致します。
この句は『笈の小文』(松尾芭蕉による江戸中期の俳諧紀行)の旅への出立吟です。
現代にも密かに流れ続ける日本的な‘何か’を描こうとする斉藤の意欲作を、ぜひお楽しみ下さい。
芭蕉 筆 「旅人と」 句色紙 旅人と 我名呼ばれむ 初時雨
句は、貞享4年(1689)、『笈の小文』の旅への出立吟。軽快優雅な筆跡から元禄4年(1691)ころの染筆と推定される。芭蕉は時雨に、宗祇の句「世 にふるもさらに時雨のやどり哉」から無常観に基く侘びの美意識を継いだ。 柿衞文庫秋季特別展 美しい季節の言葉―歳時記今昔 図録 (2008) より
これまで「日本的」ということをキーワードに、現代日本にも密かに流れつづける通定和音に描くことで形を与えようと試みてきた。それは主にアニミズムへの 関心という形であらわれてきていたが、2008年の「古今にあそぶ」展においては、古今集・百人一首から抜粋した「春」の歌から一連の作品を作った。それ は単に目の前の春の情景を描くのではなく、今まで経験した春の記憶の集積による「春」というイメージを作品化しようという自作の方法が、本歌取り・枕詞な どの作法により詠まれた、それらの和歌の成り立ちとが非常に親しいものに思えたこと、そして日本の絵が「絵画」として自律して作られるのではなく、それら 詞との重層的な関係を保ちながら作られ続けてきた側面があると考えるからでもあった。
さて、今回の芭蕉の句は、そのような連歌、漢文的世界から、最終的には「かるみ」へとつながる「さび」へと大きく羽ばたく契機となった『笈の小文』の旅へ の出立吟である。それはある意味、近代-個の存在―へ踏み出しながらも、日本中世の余韻も残すものでもあるのかもしれない。「時雨」という詞をキーワード に、作品の形式としては屏風という伝統的な形をとりながらも、いまだ流れ続ける通低和音という問題に少しでも切り込んでいけたらと思っている。
斉藤典彦 SAITO , Norihiko
1957 | 神奈川県生まれ |
1980 | 東京芸術大学美術学部絵画科日本画専攻卒業 |
1982 | 東京芸術大学大学院美術研究科修了 |
1985 | 東京芸術大学大学院美術研究科後期博士課程日本画満期退学 |
1994 | 文化庁作品買い上げ |
1995 | 文化庁派遣在外研修員(イギリス・ロンドン、’95~’96) |
現在 | 東京芸術大学日本画研究室 教授 |
個展
1984 | ’84レスポワール展/銀座スルガ台画廊(東京) |
1985 | 「博士課程研究発表展」/東京芸術大学大学会館(東京) ワコール銀座アートスペース(東京) |
1987 | 銀座スルガ台画廊(東京) |
1990 | 大手町画廊(東京、’91) |
1993 | 「Water Land―水について―」/森田画廊(東京、’97、’99、’01、’03、’05、’07) |
1995 | 玉屋画廊(東京) |
1998 | 潺画廊(東京) |
1999 | 「Luminous:内なる光」/日本橋(東京)・なんば(大阪)・横浜高島屋(神奈川) |
2002 | アートギャラリー閑々居(東京) なか玄アート(東京、’04、’06) ギャラリー尾形(福岡、’04、’06) |
2003 | 高松天満屋(香川) |
2005 | 広島市立大学芸術資料館(広島) |
2006 | 「近江路」/数寄和大津(滋賀) |
2007 | アルスギャラリー(東京) 「きもちよくながれる」/平塚市美術館(神奈川) |
2008 | 「斉藤典彦展」/数寄和(東京) 「古今にあそぶ」/数寄和大津(滋賀)・数寄和(東京) |
グループ展・受賞
1979 | 春季創画展/日本橋高島屋(東京・他、~’05、’88、’89、’90、’91春季展賞) 創画展/東京都美術館(東京・他、~’05、’89、’92、’93、’97創画会賞) |
1983 | 神奈川県美術展で特別奨励賞(’84美術奨学会賞) |
1989 | 山種美術館賞展(優秀賞) |
1992 | NEW VOICES/ベミジ大学タリーギャラリー他(アメリカ) |
1993 | ART IN JAPANESQUE―現代の「日本画」と「日本画」的イメージ/O美術館(東京) 現代絵画の一断面―「日本画」を越えて―/東京都美術館(東京) |
1994 | 文化庁買上優秀美術作品披露展/日本芸術院(東京) |
1998 | 「日本画」:純粋と越境―90年代の視点から/練馬区美術館(東京) |
2000 | 「日本画の100年展」/東京芸術大学大学美術館(東京) 「両洋の眼 現代の絵画展」/日本橋三越(東京・他、’01~’08、’05河北倫明賞) |
2002 | 「日経日本画大賞展」/ニューオータニ美術館(東京、’04、’06、’08) |
2003 | 「水を掬う、花を弄する。今日の作家展2003自然へのまなざし」/横浜市民ギャラリー(神奈川)他 「絵画の現在」新潟県立万代島美術館開館記念展/新潟県立万代島美術館(新潟) 「現代の日本画―その冒険者たち」/岡崎市美術博物館(愛知) |
2004 | 「超日本画宣言 かつて、それは日本画と呼ばれていた展」/練馬区美術館(東京) |
2006 | 現代「日本画」の展望―内と外のあいだで―/和歌山県立近代美術館(和歌山) 「新春を迎える掛軸展 和三様 第一部 日本画」/数寄和大津(滋賀) |
2007 | 「日本画―和紙の魅力を探る」/徳島県立近代美術館(徳島) |
2008 | 「ma : NEW TRADITIONS IN NIHONGA」/DILLON GALLERY (New York) タカシマヤ美術賞受賞 |
作品収蔵
大原美術館、東京国立近代美術館、東京都現代美術館、新潟県立万代島美術館、練馬区立美術館
平塚市美術館、広島市立大学芸術資料館、山種美術館